いくら小さいころからセスと一緒に過ごしているとはいえ未だ家族と過ごした時間のほうが長いけれど、触れ合った回数は家族よりもセスのほうが優に超えている。
 柔らかい手のひらの皮膚が硬く厚くなっていく様子は直接触れることで知ったし、節くれだった関節の感触は繋いだ手を離したとしてもありありと思い浮かべることができる。はじめてキスをしてからはセスはそこそこ頻繁に唇を触れ合わせてくるようになり、どうしてこうもよく長年手を繋ぐのみでいられたのだろうかと深慮してしまう。
「……ケーキ、食べるか」
 先日から寮を出て一人暮らしを始めたセスの部屋には必要最低限の家具しか詰め込まれていない。とりあえず、と購入したテーブルのうえの白い箱のなかにはカットケーキが二切れ閉じ込められている。セスのためのお誕生日ケーキだ。
「待って」
 ベッドから腰を浮かせようとするセスの肩に両手を置いて唇を寄せる。そこそこ頻繁に唇を合わせてくるのはセスだけではない。舌同士がこすれ合うのも、それで口のなかがじんと熱を持つのも、そうやって唇を合わせているうちにやがてセスの大きな手のひらが髪を撫でてくるのも、全部好きだから癖になってしまったんだろう。
「我慢しなくていいんだよ」
 幼いころから一緒にいたくせにここまでたどり着くのにも随分と時間がかかったものだからか、現状で満足しているというのが本音だけれど、セスのほうがどう思っているかは不明だ。しばしば熱を持て余した藤色の茹だった目をぎゅっと閉じて頭をぶんぶん振り回しているさまを目撃するけれど……それにつけてもセスは腕をのばして胸に抱き込み、横になって寝かしつけてしまう。
 誕生日だからというよりは、かこつけなければ、セスはなんにも言わないままひとりで押し込めてしまいそうな気がしたのだ。
「が、我慢って……。オレはべつに我慢はしてないぞ。キミはそうなのか?」
「私も、べつに……?」
 触れたらもっと触れたくなることはあるが、セスの胸のなかでじっとしていたら満たされて消えていくのを身をもって知っている。
「でも、セスといつかそうなったらいいなとは思う」
 シリオンの耳と尻尾がぶわりと膨らむ。ふたりで寝転がるための広いベッドに引き倒され、身体のうえに覆い被さるようにしてセスが倒れ込んでくるけれど、肘をついて体重のすべてをかけないようにしてくれているのを、私は知っている。
「……オレが一人前の治安官になって、ちゃんと責任をもてるようになったら、そのときは」
「うん」
 いとしいなと思っていたら、ふ、と口の端から笑い声が溢れてしまった。
「セス、優しいね。大好きだよ」
「そうか? 世間一般では硬いといわれるんじゃないか?」
「セスが世間一般のことを調べたの?」
「なんだその言い草は。自分の思いだけで動いちゃダメなこともあることくらい知ってるんだ……笑うなってば」
 大切にしてくれているのだと躊躇わずに伝えてくれるのがやはりいとしくて仕方がない。ゆるんだ頬をセスの指がつまみ、ぐにぐにと好き勝手もてあそばれる。拗ねたような瞳で視界がいっぱいになるのと、やわらかい熱を唇で受け止めるのはほとんど同時だった。