チョコレートのお酒が美味しそうだったから、普段飲まないくせに二杯ほど勢いづけて飲んでしまえば、甘さに騙されたのかほどほどの度数のアルコールはすぐに身体中に巡り、常時は(おそらく)それなりにしっかり働いているはずの頭が上手に働かなくなってしまった。

「研磨! こんばんは、もう配信は終わったの?」

 スマートフォンを持つ手をぶんぶん振って研磨が暮らす借家へとやってきたら、玄関の前で仏頂面をして立っているものだから、配信の仕事が終わって暇をしているのだろうかと問いかけてみる。返事は仏頂面、というか、呆れ顔。怒ってる顔。機嫌が悪そうな顔。

「お酒飲んだら迎えに行くから連絡してって、俺言ったと思うんだけど」
「でも平気だったよ。子どもじゃないし」
は酒癖が悪いんだよ。ほら家に入るよ」

 酒癖が悪い? 身に覚えがなさすぎる。

「おじゃまします」

 酔っ払いのくせに挨拶だけはちゃんと言えるんだねって言われているような気がしたが、被害妄想だろう。やはり調子にのって飲酒をするのはいただけないということだ。
 居間の座布団を何枚か重ねてできた枕にもならない場所に横たわらせられ、しじみのお味噌汁でいい? なんて聞かれたから、作ってくれたの? と顔を輝かせるも、インスタントに決まってんじゃんとそっけなく返される。
 インスタントであろうが、お味噌汁のいい匂いを嗅ぐと食欲が増すものだ。勢いよく起き上がったら頭がぐらりと揺れて「ばか」と鋭い言葉に横っ面を殴られるが、気持ちが高揚しているせいでめげる心は持ち合わせていない。

「美味しそう。ありがとう研磨、大好きだよ」
「そういうところなんだけど」
「なにが?」

 なんて苦々しい顔をするのだろう……。

はお酒を飲んだらいつもよりも素直になる」
「いつも捻くれてるみたいなこと言うじゃん」
「……大好き、とか、言わなくない?」
「言わないことはなくない?」
「頻度の問題」

 まあそれは……そうかもしれないけれど。私がお酒をのんだり体調を崩したりすると、研磨が突然甲斐甲斐しくなるのもほんとうだ。よって、感謝の気持ちを伝えたいと思うのは自然の摂理だろう。

「研磨はもっと言って欲しいってこと? それなら恥ずかしいけど頑張ろうかな……」
「違う」
「違うのかよ」
はそこそこ八方美人だから」
「ん?」
「他の誰かが被害に遭ってるかもしれない」
「被害? なんてこと言うの」
「ちなみにクロも被害者のひとりだからね」

 ず、と吸ったお味噌汁の味が鮮明になっていく。着古しすぎた研磨の赤いジャージが目に眩しい。どんどんと酔いがさめて、鉄朗くんに対して酔っ払った勢いで研磨が「被害」に分類する発言をしたか否かを考えてみるが、あんまり心に当たる節がない。

「自覚ないのが一番厄介」
「確かに」
「だから俺じゃないやつの前ではあんまりお酒を飲まないで」
「研磨の前だったら良いの?」
「ほどほどなら」
「やった、ありがとう」

 大好き、と続きそうになった唇は、研磨の手のひらを押し当てられてしまい、もごもごと情けない音をして言葉にならないなにかを吐き出した。

「もういいから」

 お酒をのんでいないというのに研磨の頬はやたらと血色が良く、上気している。身体ごと研磨にぶつけるがごとく抱きついてしまいたくなるというものだ。