ゲーム機器とゲームソフトで埋め尽くされた研磨のそれほど広くもないお部屋に、バレーボールや練習着が混ざるようになったのは、鉄朗くんが引っ越してきて、研磨もバレーボールをするようになってからだ。それまでは研磨が常日頃から身体を動かすなんて信じられなかったが、いま思えば、ゲームのキャラクターのレベル上げであれば苦ではなく、朝も夜も真夜中でも時間をかけてじっくりと育てられていた成果が、もしかしたら日々の練習につながったのかもしれないと思う。
研磨は給食を完食できるようになった。私が食べきれなかった食パンを食べてくれる日も増えた。手が大きく、背が少しだけ伸びていった。戯れるみたいにして研磨の腕をさわったら、皮膚が私のものとはまるで違った感触をしていた。
「また熱出たの……」
みるみる成長していっても、じっくりしっかりと集中をしてボールを回す研磨の脳は常時フル回転しているので、使い続けると熱を持ち始めるゲーム機器と同様に、研磨も(鉄朗くんいわく)きつい練習や試合のあとは、熱を出して寝込みがちになる。
こんもりとした布団を胸元まで下げた研磨は「なんで来たの、クロがなんか言った?」と不満げである。閉め切られたカーテンに、照明を落とした部屋。昼間の陽光が布地にじわりと滲むのみで、研磨の顔すらぼやけて見える。熱のせいだろうか、瞳が水っぽくて、熱が出ているのだなと実感する。
「教えてくれたのは鉄朗くん。看病したいと思ったのは、私」
「看病って……にできることはないよ」
「え、そんなことないでしょ。冷えピタ貼ったり、りんごの皮を剥いたり、背中の汗拭いてあげたりやることいっぱいあるじゃん」
「りんごの皮なんて剥けるの?」
「ピーラー使うから大丈夫。あとは何かしてほしいことある?」
「静かにしてて」
「あ、はい……」
風邪ではないものの、体調を崩しているのだ。研磨は小難しい顔をして目を瞑り、布団にずるずると戻っていく。きゅっと唇を結び、りんごの出番はまだなさそうであるので、研磨の呼吸とともに上下に動く布団をじっと観察することに専念する。
ただ、それも長くは続かず、落ち着かないからなんか面白い話でもして、と無茶な振りを受けてさすがに閉口した。
「心配で来ただけだから、その、そういうお笑いのネタみたいなのはないよ。眠れないなら帰ろうか?」
研磨のだいじなものがたくさん詰まっている部屋に入るのを許されるような関係を保てていられるというだけで、お釣りが来るというものだ。
「帰るとか、そんな話してくなくない?」
鋭い声に浮かせた腰が引き留められた。
「え、研磨怒ってる?」
「がわかんないこと言うから……」
「私にいて欲しいの?」
「いてほしい」
「……はあー……」
「……なに」
「かわいいなって思って」
「全然うれしくないから……」
「あと、毎日頑張っててえらいと思います」
「おれは他のみんなほどじゃないよ」
「それでも、いつも研磨のことすごいなって思ってるよ。ずっと続いてるしね」
音駒で部員と喧嘩したとか、バレー部つながりで宮城県の高校生と友だちになったとか、研磨にも変化の機会が増えている……。
「……おれ、だけには、しんどいならやめればって言われたくないかも」
「え? そんなこと言わないよ……、なに? どうしたの、熱のせいで頭がうまく働かないの?」
「そうだよ。だからのこと上手に構ってあげられないし、変なことも言う」
「よしよし、なんでも言っていいんだよ」
「背中の汗拭いてくれるって言ったの、本気?」
「もちろん」
「じゃあ、あとでそれをお願いするから。冗談だったって言ったって、聞かないからね」
熱に浮かされた切長の目は、ぼやりとした色を一瞬だけ潜めて、すぐに脱力する。私の提案が妙な意地を踏んだのか、こうなってしまえば譲る気もなく、口では研磨に勝てない私は、ただただ研磨の要望に応えるのみである。