食事係を引き受けたからには、真緒の健やかな食生活を守っていこうと誓った。
 年中ひんやりとしているスーパーマーケットで夕食の買い出しをする。野菜と野菜の間を縫うように歩きながら、本日の献立を想像する。真緒はいつも動き回っているから、力がつくものがいいだろうなあ。だけど夜ごはんだからお腹が重たくならないもの。茸を煮込んだホワイトシチューに、カリカリに焼いたガーリックトーストもいいな。

「寒いんだけど」
「うぉあ!」

 スピーカーが流行りの音楽を吐き出していたが、そんな背景音は私の大きな声を誤摩化してくれない。ああ、驚きのあまり心臓がばくばくする。
 主婦のみなさまから遠慮なく投げかけられる視線をひょいひょいっと避けて、私がこうなった原因である凛月の腕を引っ張って生鮮野菜コーナーから退却をする。カゴの中に放り込まれた緑黄色野菜がごろごろと転がって、腕にぶつかっていた。早歩きのせいだ。

「ちょっと、……? 腕痛い」
「なんでこんなところにいるの。ここで寝たら凍死するよ」

 不満を顔面いっぱいに引き延ばしている凛月はスーパーマーケットとは無縁な人種である(はず)。それに、スーパーが寒いのは当たり前のこと。制服と通学用の鞄だけを持っている凛月の手に買い物カゴが握られる予感はひとつもなく、だとすれば凛月はどういう風の吹き回しでこんなところにいるのだろう。

「あのさあ、さすがにここで寝るわけないでしょ。って本当に馬鹿だね」

 やれやれと言いたげに首を降り、しかしその直後にはちょっとした微笑に塗り替えられる。馬鹿だね、しょうがないね、の言い方は絹のように柔らかい。生活サイクルが真人間のそれと若干ずれていたり、たまに「血が飲みたい」とかなんとかいうオカルティな発言はあれど、凛月も私の大切な愛しい幼馴染なのだった。
 その家事とは無縁なはずの幼馴染はカゴの中身をひょいっと覗いて「今日はなに作るの」と訊いてくる。

「シチューだよ。最近すこし寒いでしょ」
「ふうん……」
「りっちゃんも食べにくるの?」
「うん。ま〜くんとを二人きりにしたら間違いが起きるかもしれないしね……?」
「真緒はそういうタイプじゃないでしょ」
「そうじゃなくて。が襲う方」

 失礼なことをのたまう凛月の肩を軽く殴るも微塵も効いておらず、そろそろ日が落ちるからか朝よりもつやつやとした健康そうな顔で、それでも素知らぬ様子でカゴの中を奪い取る。いや、なに? まさか荷物を持ってくれるとかだろうか。
 
 凛月は基本的には優しいけれど、重たいものをすすんで持ってくれるような優しさとは違う。それは幼い頃から変わらず、私は凛月に手助けをしてもらった記憶をあまり持っていない。教科書の詰まったランドセルや、夏休みに育てなきゃいけない青い紫陽花を持って並んで歩いた記憶が、アスファルトを灼きあげた強い日差しとともに幻として現象される。

 なので、凛月はカゴを持ってくれるのではなく、長い人差し指でにんにくを指し示す。シチューと一緒に出すガーリックトーストに使うつもりだったんだ。心底いやそうに「これ、いらないでしょ。戻してきて」と訴えられる。

「相変わらずだめだねえ、にんにく」
「兄者の弁当に使うなら買ってもいいよ」
「だめだよそういうことしたら」
「ま〜くんよりも年下のが俺に説教なんて、生意気」
「はあ」

 面倒だからにんにくは買わないことにしよう。今日はシチューと白米でいいや、もう。
 シチューの材料の他に、明日のお弁当に入れるものや、ちょっとしたお菓子を次々と放り込んでいるうちに結構な重さが腕にかかる。その重さは嵩として目に見える。エコバック二つ分となった買い物の結果の前に立ち尽くし、横目で凛月を盗み見る。あ、このやろう。あくびをしているなんて。

「ねえりっちゃん。ひとつだけ持ってくれないでしょうか」
「ん〜……? は力持ちじゃなかったっけ」
「ち、力持ち?」
「それ持てたらご褒美にま〜くんの写真あげる。が気にしてる、学院でのま〜くん」
「え、ええ……そ、それは」
「いらないの?」
「欲しいかも」
「じゃあふたつとも持てるね」
「それは無理。でも写真は欲しい」
「はあ……って生意気な上に我が儘で、いつまで経ってもお子さま……」

 面倒極まりない口調に反して買い物袋のひとつを持ち上げてすたすたと歩き出す。気怠げな背中に置いていかれないために、冷気ですっかり冷やされた足に血をうんと巡らせるように駆け出した。

「真緒の写真くれるって本当?」

 そう遠くない家までの道のりを並んで歩く。家々の隙間に見え隠れする夕陽が最後の眩しさを放っていて、目がちかちかした。

「ああ、あれはのやる気を煽るための嘘。まあ、お子さまのくせに生意気なにはちっとも効かなかったけど」
「もう!」