昨日のホームルームで、学校の先生が「この近くで変質者が出ました。夜遅くに出歩かないように」と眉間に皺を寄せて注意を促していたのを思い出した瞬間、この家のどこもちっとも安全だとは思えず、窓という窓の施錠を確認し、玄関には厳かなロックをかけた。中学生を誘拐して殺害したというニュースを叫ぶテレビはとっくに電源を落としてしまっている。暗い気持ちで目の前に並んだ朝ごはんを凝視していると「食べないのか?」真緒の声が沈黙と沈黙の間を縫い止めた。

「朝はしっかり食べないと、午前中もたないぞ」
「真緒。私、十日間を生き抜く自信がないの」
「なんでいきなり弱気なんだよ……」
「だって、さ、殺人事件に巻き込まれるかもしれない! そうじゃなくても変質者に遭うかも。見たくもないものを見せられるかも。そういうときってどうすればいいの」
「全力ダッシュで逃げろ」
「助けにきてくれないのかよ」
「それは場所によるけど……とにかくすぐ俺に電話しろ。ずっと繋いでてやるから」

 でも電話に出られないかもしれない……。
 この幼馴染は、一風変わった様子の学校に入ってからてんで忙しそうで、毎日がてんてこまい。部活に、生徒会に、あとはアイドルとしての活動も頑張っているので、私がのんきに道端で露出狂に出くわし自意識を傷付けている間に、分刻みであちこち動き回っているはずなのだ。
 お味噌汁に浮かべた桃色や黄色の鮮やかな麩を箸の先でつついていると食べ物で遊ぶなと叱られたので、仕方なしにひとつ摘んで口に運ぶ。汁が染み込んだ麩は温かくて柔らかい。

、料理できるじゃん」

 箸を持ったままぼんやりしていると、しっかり食べろとの叱咤激励を受けて仕方がないので、真緒に従ってしっかりと咀嚼をしていた。そうしてお椀の半分くらいの白米を飲み込んだところで、すでにすべてを食べ終えて息を吐いた幼馴染が深く呟く。

「お母さんの帰りが遅いことが多かったから、仕方なく自分で作っているうちにハマっちゃって……」
「俺んち、親も妹も行っちゃったし、俺は料理できないからさ。が料理当番を引き受けてくれて助かってんだよ」

 真緒は包丁を扱えないのだった。

「真緒、ひとりだったら適当に済ませちゃうもんね。独身のサラリーマンみたいに」
「馬鹿にしてんなあ……。ま、そういうわけだから、このめちゃくちゃ美味い飯のぶんくらいはの面倒をみてやるよ」

 本当に?

「……呼んだら駆けつけてくれる?」
「おー、おー。いつでも呼んでください」
「真緒、優しい」
「そんなんじゃねえよ。おまえは、なんていうか、妹そのにみたいなもんだし」
「はあ……そのに……」

 これは全然うれしくない。

「じゃ、俺、朝練行くから」
「うん。がんばってね。怪我しちゃだめだよ」
も。のんびりして遅刻すんなよ」

 途中までは一緒の道だったのに、高校で違えた。旅行についていくという選択肢がなかったわけではない。だけど、これは幸いなのだ。神さまがくれたチャンスといっても過言じゃない。
 ほとんど一人暮らしのようなものである。私と真緒は同じ状況下で、お互いを補い合うように十日間の生活をこなしていく。それはきっと、著しいまでに減少したお互いの会話を取り戻す取っ掛かりになるはずなのだ。