「おとなりさんと旅行に行くことになったから、は十日間ひとりで大丈夫ね」
「全然大丈夫じゃないんですけど」

 にっこりと笑みを浮かべた母親が海外旅行用の大きなスーツケースをガラガラと押しながらタクシーに乗り込む。いたいけな娘を残して、海外旅行に出かけるとは何事だろう。
 十日間もひとりで暮らせるわけがない。さっさと発車したいのか、タクシーの運転手が物言いたげな視線を送ってくるけれど鋼の心で無視を決め込み、数年ぶりに駄々をこねてみせる。親に頼らないと生きていかれないほどの駄目娘なので、どうか思いとどまってほしい。しかし、私の物心がつく以前から私のことを知っている母親は、さすがなもので、「あんたは確かに生活力はないけど、料理だけはうまいからまあなんとかなるでしょう」とグッドラックのポーズをしてみせた。

「生活力ないって言った……」

 黒塗りのタクシーはだんだんと小さくなっていく。ミニカーサイズになったところで、件のおとなりさんである真緒が「行っちまったな」と頭を掻く。何を隠そう、私たちは揃いも揃って一人暮らしを強いられるわけで、この異様な状況につっこんでくれる人は誰一人だっていない。清閑とした住宅街。まだ、早朝。すこんと爽やかな秋の風がスカートの裾を翻す。縞模様の猫が朝一番のあくびをかましている。

「行ってしまったもんは仕方ない……。ま、そんなわけでよろしくな」

 苦労慣れしている愛しの幼馴染は苦笑いをしながら手を差し出す。

「真緒。私のお世話をよろしくね」

 ぎゅっと握手をしながらそう訴えかけると、ひとつ歳が上の大切で大切で仕方のない大好きな幼馴染が「世話ってなんだよ」と軽口を叩き、だけど次の瞬間には「仕方ないな」と受け合ってくれる。きゅっと締まる胸は、真緒のことが好きだと叫んでいる。